パリのおしゃべり


本物のコレクター

屋根裏のミケランジェロ

DROUOT パリの競売所


 



Mr.Collection

本物のコレクター




これは、まだ夏前のある土曜日の事。
お昼を少しすぎたうららかな日差しの中、車を走らせて、パリのある方の家を訪ねました。

呼び鈴を鳴らすと、暖かい笑顔と共に握手で迎えてくれたその人は、ある世界では少々名の知れた方。ある世界とは、フランスのピュブ(広告)コレクターの世界です。

彼は仕事をリタイヤした後、昔からずっと続けていたコレクションの趣味に本腰を入れ、毎週各地の見本市や蚤の市を訪れては屋台の端から端まで目を光らせて、宝物を探しています。
私は、そんな彼のことをムッシュー・コレクトと呼ぶことにしました。


ある時「本物のコレクターがいるから会いに行ったら?」と人から勧められました。本物のコレクターとは何だろう、と不思議に思いその理由を尋ねました。すると、「彼の家に行けばわかる」との返事。何でも、彼の家はさながら小さな美術館の様だとのこと。そんな凄いコレクターならきっと気むずかしい人で、古めかしくて薄暗い大きな家の中に所狭しとコレクション品が飾ってあるんだろうと想像しました。

そんな思いを裏切るように笑顔で迎えられ、促されるまま玄関を一歩はいると彼の奥さんがまでがお孫さんと一緒に賑やかに台所から出てきました。「こんにちは。いらっしゃい。今日は孫を預かる日なの、騒がしくてごめんなさいね。」と気さくに挨拶をする奥さん。金の巻き毛のかわいらしい女の子が奥さんの足にしがみつきながらこちらの様子をうかがっています。周りはというと、コレクション品は何処へやら、玄関はお孫さんのおもちゃが幾つも転がっています。壁にはカスティリオーニの絵が掛かっていましたが、他にはそれらしき物が見あたりません。
一通り挨拶をし終えると、ムッシュー・コレクトが言いました。
「Alors, on y va?」 (じゃぁ、さっそく行こうか?)
「Oui!」 (はい!)

ある扉を開けると屋根裏へ通じる急な階段が現れました。
足をすべらせないようにおそるおそる一段ずつ上った
その先は、、、


 
ムッシューコレクトの秘密部屋です


まずは手始めに、と見せてくれたのはその膨大な数のファイルです。戸棚にズラッと並んだ茶色のファイルには、カッサンドル、カッピエロ、サヴィニャック、モルヴァン、ヴィルモ等を始めとした作家事にポストカードやグリーティングカード、雑誌広告の切り抜きやビュバー等が1つ1つ丁寧に分類分けしてあります。
「好きなのからどうぞ」と言われるまままずは数あるファイルのうちサヴィニャックNo.1を手にとってみました。

驚くのはその種類の豊富さもさることながらコンディションの良さ。そしてポストカードを一つとっても、同じ図柄でも発行年が違う物、印刷元が違う物全てを網羅していて、きちんとカテゴライズされています。たまに、ぽかっと開いたスペースがあるので聞いてみると「ここは、まだ手に入れてい物。このポストカードの、○○年に発行された物がなかなか見つからなくてね。実はこの前蚤の市で見つけたんだけれども、コンディションがいまひとつだったから買わなかったんだ。」との事。

これが、このムッシュー・コレクトが「本物のコレクター」と言われる所以でした。フランスには沢山のコレクターがいますが、大部分は収集する行為が目的になっているようです。けれど、彼は自分の収集に妥協をしません。何でもかんでもを収集するのではなく、自分の納得がいく物だけを求める事。そして手に入れた後も、時々手入れをしたりしていつも気にかけていること。これは、何に対しても意外と難しいことですよね。


サヴィニャックコレクション写真上から
サヴィニャックのモノクロ写真
ピンバッヂ
DUNLOPILLOホウロウ看板
虫よけスプレーの看板
キーホルダー


写真上から
閲覧用図録集(保管用は別)
ファイル

一口にピュブ(広告)コレクションと言ってもそのジャンルは多岐に渡ります。ムッシュー・コレクトはその中から自分の気に入った物だけを収集していきます。
そのコレクションの一部をここでご紹介します。

左写真、1番上は旧エールフランスのロゴマーク入り素焼きの小皿。当時搭乗したお客さんへのプレゼントでしょうか。淡い色合いのものが沢山揃っていてキレイです。

上から2番目はフランスのメンコです。色あせたプレスリーの写真が時代を語っていますね。

3番目はシャンパンの口金。小さいながらも美しく完成されたデザインの多いこの口金。フランスにはこの口金収集の熱いファンが多くいます。

4番目は小さなメモ帳。表紙が広告になっていて昔、カフェなどで配られていた様です。中にはたまに、注文されたビールの値段でしょうか、カフェのギャルソンが書いたような数字の走り書きも見つける事ができます。

5番目は口金付きコルクです。リキュール類などに使われます。後ろに見える白いものはこのページの上にも写真がありましたね。PIERROT COURMANDのキャンディースタンドです。お菓子屋さんのショーウィンドウに飾られるものですが、今ではめっきり数が減ってしまいました。

帰る間際に案内されたキッチンにもサヴィニャック電飾看板が。マスタードの香りを嗅ぐ少女の看板が楽しそうに光っています。

オークの美しい棚にはどの引き出しにも、ぎっしりと年代物のポストカードが詰まっていました。

 

 
フランスのコメディ映画などでは、収集癖のある男性が良く登場します。映画の中では他の人にはよく理解出来ないおかしな物をひたすら集めているので笑いを誘うのですが、それは、フランス人なら誰しも似たような持った友人を一人は持っているので親近感を抱いてしまうのでしょう。とはいえ、誰しももし自分のことをふり返れば、何かしら集めてしまう物があるのでは無いでしょうか。思い起こせば幼少の頃から、何でもない石ころやガラス玉、色とりどりの紙切れなど、色々なものが輝いていて吸い寄せられるように集めていたのでは無いでしょうか。この子どもの頃の熱を抱いたまま何十年も後、今度は自分の孫と一緒にその宝物を眺めるのは、なんて素敵な時間の過ごし方なんでしょう。



たっぷりと彼の世界を探検して秘密部屋を後にした後は家の中と庭を案内してもらいました。サロンには年代物の家具が置かれ、庭にはサクランボがたわわに実る大きな桜の木がありその脇で奥さんとお孫さんがぽかぽか陽気の中遊んでいました。
帰り際、彼はサクランボの沢山付いた小枝を1本折って「割とおいしいよ」と差し出しました。
明日は日曜日、朝早くから目星を付けたパリの骨董市を巡るんだ、と言う彼に「Bonne chance!」(グッドラック!)と言って握手でお別れをしました。

さて、皆さんの宝物はなんですか?
いつまでも輝いていますか?
2006.10.18



 

 

 

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